敗北の先に

このお話はフィクションです。


ほんとうのきもちはないしょでござるよ、けんいちうじ。


溶けるように眠って、目が覚めると夕方だった。


わたしは、金策に頭を巡らせる。


もう、2万や3万の小銭ではどうにもならない。


わたしに残った最後の財産といえるようなもの。


ある。最後にひとつだけ。


駐車場に止めてある、動かなくなった外車。


正規ディラーのショールームで心を奪われた。


毎日、ショールームをのぞきにゆく。


納車の日は天にも登る気持ち。


中古だけれど、その車の全てが本当に大好きで、


納車の日は嬉しくて車の中で眠った。


ありったけの現金と、


金利の高いローンを払う。


ようやく手に入れた車。


17インチのアルミを履かせいろんな場所へいった。


絹のようなエンジンは滑らかに回りで


その走りはどこまでも魅力的で、わたしの心を魅了した。


動かなくなってしまっていたけれども、いつか修理して


また、一緒に走ろうと、そう思っていた。


けれど、もう猶予はない。


大丈夫だ。


車は現在乗っているロータリーがある。


そもそもこんなに切羽つまってるのに


車を2台維持、なんてできるはずがないんだ。


「負ける、というのはこういうことなのだ。」


自分の不甲斐なさのせいで、


全てを奪われてしまう。


私は、車関係の仕事をしている旧友に連絡をして


車をひきとってもらうことにした。


2日後の夕方、死神のようなレッカー車がとまる。


車検切れのわたしの車は、


まるで「ドナドナ」の牛のように


運ばれてゆく。


友人は、余計なことは一言も言わずに


わたしに、お金の入った封筒を手渡した。


そして、去り際に


「元気出せや。


クルマなんか、また景気がよくなってから


買い戻せばよかろうもん。」


と、あまり上手ではない笑顔を見せた。


封筒をあらためる。


20万。


400万近くかかったクルマが


たったの20万。


車検も切れて、10万キロオーバーのクルマでは


これが中古車の売買では相場なのだろう。


とにかく、面倒な手続きも必要なく


現金を手に入れることができたことは


本当にありがたい。


様々な払いをして、結局手持ちは


12万円くらいになった。


この12万が最後だ。


どうするか。


正直、あの青年には勝てる気がしない。


お金に余裕がある人間と


そうではない人間。


博打での格付けは済んでいる。


どこか違う雀荘をさがす?


でも、わたしの麻雀のチカラで


凌げる雀荘なんて、他にあるだろうか。


とにかく毎日1万円勝てればいいんだ。


それは、別に麻雀でなくてもいい。


楽しくもない麻雀。


きついだけの麻雀。


次の日、私はパチンコ屋の開店に並ぶ。


毎日1万円くらいなら、なんとか勝てるのではないか。


そう思ったからだ。


麻雀が怖かった。


だって、お金を取られるだけだもの。


きっとまた当たり牌を掴む。


ロッキーのテーマが鳴り響き


店の自動ドアが左右に大きく開く。


にぎやかな店内。


麻雀のことばかり考えながら


パチスロのリールを目で追う。







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