残滓 [麻雀小説サークル]

このお話はフィクションです。



新しくできたその雀荘。


金融業や、パチプロがその客層のほとんどだ。


ただ、店の雰囲気があまりにも良すぎることと


店員さんの接客がパーフェクツなため


とても賑わっていた。


あの青年との出来ごとから、8年。


その頃の私は、どん底にいた。


いつもお金がなかった。


何もかもうまくいっていなくて、


麻雀で小銭を稼いで、生活を繋いでいた。


そのことがたまらなく恥ずかしくって


古い友人には、合わせる顔もなかった。


どん底の惨めな気持ちの日々。


数限りない思い通りにならない出来事。


その中で、麻雀だけが、唯一


努力や我慢を裏切らない存在だった。


遊び半分に楽しんで麻雀を打っている人間は


そのかわりお金を置いてゆく。


我慢をして苦しい麻雀を打っているわたしは


そのお金をひろってゆく。


楽しい麻雀なんて、もう忘れてしまった。


お金が必要だ。


たまらなく惨めだった。


麻雀の理屈だけが、私を支えていた。


お金に執着する必要のない、


大きなお金の感覚の中に身を置いている


パチプロや金融業のみなさんは、


「勝ちに行く麻雀」ではなく


「楽しむ麻雀」を好む。


なので、勝つことだけを考えている自分にしては


本当に凌ぎやすい雀荘だった。


一円でもお金を持って帰る。


トップよりチップ。


赤ありの手役の取りこぼしは


お金を捨てるようなものだ。


赤ドラはお金だ。


調子が悪い時は、打たない。


調子のよい人とは、同卓しない。


他家をいかせて、振り込ませる。


ラスを他人に押しつける。


目立たないように、ありとあらゆる姑息な手を駆使して


毎月、ほぼ毎日通って7万円くらいをあげていた。


その7万円程度のお金が、その時は本当に必要だったのだ。


月末は、本当に苦しくて、20日を過ぎると眠れなくなる。


ゲーム代金があまりにも安いこと、


客層が甘いこと、


店の雰囲気があたたかいこと。


楽園。


その楽園に守銭奴が混じっている。


そんな感覚。


いつも、お金のことを気にせずに麻雀を打ちたい。


そう心のなかで思っていた。


パチプロたちや、金融業のひとが


来店する午後23時のゴールデンタイム。


いつものように、燃費の悪いロータリーエンジンの車に


身体を埋めてガソリンをあまり使わないように、


注意をしながらその雀荘に向かう。


もう一台の外車は、車検が切れて駐車場に眠っている。


お金がないから、処分ができないのだ。


いつものようにドアを開けると


その店内に懐かしい笑顔が見える。


間違いないあの時の青年だ。


きれいな愛想のよい彼女を背中に


なんだか、妙に慣れた手つきで


麻雀牌を小気味よく河に並べている。


あの頃の麻雀への情熱。


麻雀を打つこと、が好きだった自分。


こころのなかにある、その残滓。


いつものように、お金のためではなく


ただ、その青年と麻雀が打ちたい、と思った。


「おひさしぶりです!」


青年は変わらない笑顔を私に向けると


彼女に、わたしにはお世話になった、などと


紹介をしてくれた。


懐かしいあたたかい気持ちがこみ上げてくる。



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