深夜の対局 [麻雀小説]
大学1年の頃のハナシである。
いつものコンビニから戻ると、留守録のランプが明滅
メッセージ有り、を私に知らせてくれる。
麻雀を覚えて日の浅い先輩から、誘いの電話。
時計を見ると、もう深夜1時を回っている。
こんな時間に、とも思ったけれど、
このときは(このときも・・かな?)麻雀の誘いは極力断らないようにしていたので、
買ってきたばかりのコンビニ弁当を食って、ジャンプを読んで、支度をした。
この頃、ジャンプでは、フリーザがパパを連れて復讐にきたところを、
トランクスにぶったぎられる、という衝撃的な場面が繰り広げられたりしていた。
トランクス、かっちょええええ!!!なそんな時代。
駅のそばの弁当屋の前で待ち合わせ。
深夜で人通りの少ない夜道を、てくてく歩く。
こんな夜中に出歩いているのは、「どろぼう」と「にゃんこ」ぐらいのものだ。
現金も、まあ、持っているし、レートもそんなに高くはないだろう。
それに、正直、麻雀は負ける気がしない。
麻雀を打つことが楽しみで仕方なかった,当時の私は、
麻雀を打つことで使うオカネは、やむを無い出費、だと思っていた。
麻雀が最優先事項だった。
麻雀のことをよく知らなかったこの頃は、不思議とオカネが減らなかった。
テンパイをとれば、それがそのまま和了に繋がる、なんてこともザラだったし
仕掛けたなら赤ドラが集まるし、裏ドラはぽこぽこ乗るし。
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待ち合わせ場所に、先輩はただずんでいた。
「お疲れさまです。
メンツ足りなかったんですか?
おれ、ジャンプ読んでたんすよね。
先輩、ドラゴンボール読みました?
トランクスってべジータとブルマの子どもだったんですねえ」
この時代、世の大学生のほとんどが、見守っていたドラゴンボールのストーリー。
やはり、会えば誰彼かまわず口火をきって、その話題が出る。
私のドラゴンボールの話を完全に無視して
「つかっちゃん、レート高いけど、いい?」
と、なんか重々しい感じ。
「いくらっすか?100円までなら、だいじょうぶっす。」
本当は50円がよかったけれど、そうは言えないそんな空気。
「うん、100円。それでな。あとな、手積みだけれど、いいか?」
げ!手積み。イヤだなあ・・。!
と思ったけれど、時間も時間だし、電車もないし、
こんな時間にやってる雀荘なんてあるわけがない。
「いいですよ。で、相手は誰なんですか?」
そう答える私に、先輩はついてこいの合図。
夜道を歩くと、我々は古い小料理屋の前にいた。
きっと、他の大学生の部屋で打つのだろう、と思っていた私は
ちょっと、違和感を感じた。
「おう、来たなあ?」
ちょび髭の「うさんくささを感じざるをえない、50くらいのおじさん」が
こちらにむかって、声をかけた。
「うう、嫌な予感がするなあ・・・」
そう思ったけれど、この頃は、麻雀が打てれば幸せだったので
あんまり深くは考えなかった。
小料理屋の2階へ、きしむ階段を登ると、座卓の様相で、麻雀牌が並んでいる。
白い牌。
真っ白な雪のような白い牌だ。
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