暗い階段を登って [麻雀回顧録]
細い階段をどんどん登ってゆく。
人が2人、横並びになることも困難だろうと、そう思われるような細い階段だ。
その薄暗い壁には、何やらポスターが貼り付けられている。
見たことも聞いたこともない「演歌歌手」のポスター。
おそらくマリリンモンローと思われる「白人女性」のポスター。
コカ・コーラのポスターなんかも貼り付けてある。
斜めに、無頓着に、何かを隠しているかのように貼り付けてある。
まるで、異次元に繋がっているようなそんな階段。
途中で登っているのか、下っているのか、それさえも分からなくなるような錯覚に陥る。
階段を登りきるとドアがあった。
私は、宮沢賢治の「注文の多い料理店」をなぜか思い出していた。
どうやら、その雀荘の入り口であることに間違いはない。
ドアの向こうは、きっと、私のまだ知りえていない世界。
私は、ただひたすらワクワクしていた。
この、うらぶれた感じに、私は心躍っていた。
まるで、自分が「色川 武大」の作品の登場人物になったかのような、
そんな背徳感のある、悪漢な感じ。
木製のドアが、ぎい、と音を立て開く。
つかさ会は、今週土曜日正午開催。
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雀荘に連れて行ってよ! [麻雀回顧録]
麻雀といえば、タイマン勝負だと相場は決まっている。
ゲームセンターの麻雀然り、
ゲームボーイの麻雀然り、
フアミコンの麻雀然り。
PCエンジンに「戦国麻雀」なるものがあり、唯一それが4人打ちだった。
4人で打てるの?まじっすか?
私のカーストは浪人のろうにんぎょう。
本物の麻雀に触れることなど叶うはずもない願いであった。
それが、これから、本物の麻雀が打てる、というのだ。
しかも、麻雀の専門店、麻雀荘で。
4人で、ホンモノの牌で。
Sは、すこしよたりながら、賑やかな商店街の隅に、古い喫茶店にむかった。
リーゼントといい、Sのその風貌といい完全に「あんちゃん」である。
その喫茶店は、実は結構な老舗である。
昼はアンティークな喫茶店。
夜はルイーダの酒場のように、賑やかに様変わりする。
いつか、ろうにんぎょうじゃなくなったら、いってみたいなあ、そう思っていた場所のひとつ。
とくに夜は、綺麗な女の人とかがいて、とてもきらびやかな感じ。
まさに出会いと別れのロマンティックな場所。
店の中に入ったことないけどね・・・。
だが、ちょっと待って!
麻雀を打ちに行くのに、喫茶店とはいささか様子がおかしい。
そう思う私の心を知ってか知らずか、
Sは慣れた様子で、喫茶店のとなりの小さな木製の1メートルくらいのドアを開けた。
薄暗いドアの先には細い階段があった。
Sは、こっちだ、と我々を促し、その階段を登る。
木製の階段はギシギシと音を立てる。
持ち金1000円ちょい。20歳。
スペック 偏差値42のろうにんぎょう。
けれど、少しも恐ろしくはなかった。
むしろ、早く牌に触れたい、そればかりだった。
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麻雀。 [麻雀回顧録]
麻雀を打つとは思わなかった。
高校の時分はそう思っていた。
これまた、20数年前。
高度経済成長ばんざいな頃。
街には、喫茶店が立ち並ぶ。
ボーリング、ビリヤード、そして、映画館。
そういうレジャーとは、一線を隔したピカロな感じがする場所。
そう、シミケンの雰囲気のする場所、それが麻雀クラブだった。
そしてそういうことに憧れてしまう、それもまた若さなのかも知れない。
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1ミリも勉強はしていなかった。
大好きな「政治・経済」と「現代国語」この2教科以外には、まったく興味がなかった。
「政治・経済」の薄い教科書は、暇さえあれば開いていた。
そこに、これからの世界の全てがある、とそう感じていたからだ。
憲法の全文も気がつくと丸暗記していた。
天皇が崩御されて、高校行事の「万歳三唱」が自粛された際、教師に詰め寄った。
「天皇制は、おかしい。何故だ?」
と説明を求めた。
教師は、
「あなたの気持ちはわかるわ。けれどね、昭和天皇がなくなって、悲しんでいる人がいる。
その人たちの気持ちを考えなさい。それもとても大切なことなのよ。」
と諭された。
うそくさい、とおもった。
優しい上品な社会科の教師だった。
とにかく子供じみた正義漢しかないクソ生意気な若僧だった。
理屈にあわないことは、おかしい。
ムツゴロウ氏が講演に高校にいらっしゃったときも、
「人間は、他の動物を食べて生きている。
それなのに、ねこやいぬをかわいがることはおかしい。
同じ、いきものではないか?
腹が減ったら、かわいがっているにわとりでも食べるだろう?」
と質問をする。
ムツゴロウ氏は、
「だからこそ、命は尊いのだ。慈しんで感謝せねばならない。」
と。
殺すくせにかわいがるのか?
食うくせに、かわいがるのか?
うそくさい、と思った。
とにかく、不勉強なくせに、全てに納得がいかない、そういう嫌な若者だった。
理屈ばかりで、こころがない。
今、目の前に当時の自分がいたならば、頭を引っぱたきたくなる
それくらい、生意気だった、と思う。
そういう自分が、麻雀荘に行くなんて、当時は考えてもいなかった。
世の中、理屈どおりにはいかない。
そういうことがすこしづつ分かり始めた頃、麻雀と出会った。
昭和から、平成。に時代はかわってゆく。
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麻雀は4人で打つもの [麻雀回顧録]
戦う、ということは、向かい合う、ということだ。
結果、振り込むこととなっても、全力で組んだ手組で相手にぶつかったのであれば、
必ず、相手の力が自分に突き刺さる。
この痛みこそが、成長の糧である。
ぼんやりと組んだ手組に、その覚悟はあるのか?
例えば、誰よりも早くカンチャンの役なしテンパイを組むとする。
それで、リーチを打ったとしよう。
そのリーチを、過去の自分の対局者に、胸をはって
「これが、わたしの精一杯だ。これがわたしの麻雀だ。」
と言えるか、どうか。
現在、目の前にある一打は、過去の自分の麻雀の結実したものでなくてはならない。
それこそが、牌と人を大切にする麻雀の醍醐味だ。
楽をしている人間のところに点棒は集まるかも知れないけれど、
信頼や、感動は集まらない。
それだけが、私のひろりん師匠から教わった矜持である。
麻雀は4人で打っている。
あなたが、今はまだ戦えないのであれば、代わりに私が捌く。
あなたの切れない牌を切って戦うから、どうか、そこから何かを感じて欲しい。
それもまた、4人で打つ麻雀なのだから。
今は、力がないからと、肩を落としてはいけない。
今は、他人と違うからと、委縮する必要は全くない。
麻雀は、努力を決して裏切らない。
そして、平等に機会を与えてくれる。
ただ、みな、それを平等だと理解していないだけだ。
他人と比較する前に、目を閉じて自分の麻雀を見つめて欲しい。
世界にひとつだけの、あなただけの麻雀を構築して欲しいのだ。
こんなこと、言葉で伝えることなどできない。
自分が、そうだったのだから。
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わたしは、そう思い至るまでに、それまで自分が「武器」だと勘違いしていた
麻雀観の全てを一度白紙に戻す必要があった。
目の前に有効牌があり、それを仕掛けることで間違いなく自分の手牌は前に進むのに、
どうして「メンゼンであること」を大切にして、それを見送るのか理解ができなかった。
「完全先付けが主流」だったこともあってか、私が麻雀を覚えた地域性なのか、
メンゼンはかっこよく、食い仕掛けは、ださい、そういう風潮があった。
3つ仕掛けることは、手牌の進行ということで考えるなら、
有効牌の3枚引きと同義である。
ひろりん師匠から、麻雀を教えていただくようになった当初、
私は、少なくとも自分より強いであろう人と、賭けずに麻雀を打てることを
「ラッキー!」だと思っていた。
私の武器である、「食い仕掛け」と「愚形リーチ」をほめてもらえるかな?
くらいのことを、考えていた。
「いやあ、君の食い仕掛けはイカスなあ」
とか、
「愚形をよくツモるなあ。」
とか、
褒めてもらえるかも!とか思っていた。
大ばか者である。
つかさ会は、7月12日、午前11時から
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音速の鳴き [麻雀回顧録]
手牌はすぐに4枚になる。
その頃の私は、概ねそんな風だった。
そして、それが、自分の勲章だった。
攻めて攻めて攻めまくる。守備はゼロ。
赤が5環帯で祝儀がつく、そんなフリー雀荘では
仕掛けないことは、そのまま、損に繋がる。
メンホンやチャンタなど、本当に都市伝説だ。
そんな手役に酔いしれるくらいなら、仕掛けて赤の祝儀でももらったほうが得だ。
仕掛けられないときに、はじめて面前で組む。、
そして、リーチでまた祝儀を拾う。
なによりも大切なことは、自分より弱い人間と打つ。
これに尽きる。
仕掛ければ、おりる。
リーチを打てば、おりる。
そういう相手と同卓することだ。
誰よりも、早くテンパイを取って和了してしまえば、
他家は全く和了出来ないのだから、負けようがない。
全ては、勝つ為である。
守備など考えたことは、なかった。
そんなもの、弱い人間のすることだ、と思っていた。
攻撃一辺倒で勝てるのに、何故そんな無駄なもの覚えなければならないのだ。
と、本気で思っていた。
鳴けば、間違いなく手は進み、他家はそれを警戒して、手が遅れる。
こんな便利な食い仕掛けを戦術のメインに組み込まないなんて、
みんな何を考えているのかしら?
そう私は思っていた。
麻雀の強さは狡猾さ、だ、と思っていた。
いかに、楽に点棒を集めることができるか?そのことばかりを考えて
その結果辿り着いた手麻雀である。
和了のほとんどが、タンヤオと役牌、とリーチ。
この3点だった。
麻雀を覚えて10年くらいは、それでいい、と思っていたのだから、めでたいハナシである。
そして、もちろん、そんなイツワリの強さは、ホンモノに粉々にされることになる。
つかさ会は、7月12日、午前11時から
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ルイーダの酒場 [麻雀回顧録]
麻雀といえば、タイマン勝負だと相場は決まっている。
ゲームセンターの麻雀然り、
ゲームボーイの麻雀然り、
フアミコンの麻雀然り。
PCエンジンに「戦国麻雀」なるものがあり、唯一それが4人打ちだった。
特に我々は浪人のろうにんぎょう。
本物の麻雀に触れることなど叶うはずもない願いであった。
それが、これから、本物の麻雀が打てる、というのだ。
しかも、麻雀の専門店、麻雀荘で。
Sは、すこしよたりながら、賑やかな商店街の隅に、古い喫茶店にむかった。
リーゼントといい、Sのその風貌といい完全に「あんちゃん」である。
その喫茶店は、実は結構な老舗である。
昼はアンティークな喫茶店。
夜はルイーダの酒場のように、賑やかに様変わりする。
いつか、ろうにんぎょうじゃなくなったら、いってみたいなあ、そう思っていた場所のひとつ。
とくに夜は、綺麗な女の人とかがいて、とてもきらびやかな感じ。
まさに出会いと別れのロマンティックな場所。
行ったことないけど・・・。
だが、ちょっと待って!
麻雀を打ちに行くのに、喫茶店とはいささか様子がおかしい。
そう思う私の心を知ってか知らずか、
Sは慣れた様子で、喫茶店のとなりの小さな木製の1メートルくらいのドアを開けた。
薄暗いドアの先には細い階段があった。
Sは、こっちだ、と我々を促し、その階段を登る。
木製の階段はギシギシと音を立てる。
持ち金1400円。20歳。
スペック 偏差値42のろうにんぎょう。
けれど、少しも恐ろしくはなかった。
むしろ、早く牌に触れたい、そればかりだった。
つかさ会は、今週は土曜日開催。
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雀荘へ [麻雀回顧録]
麻雀が、打てる。
心臓が、早鐘のように鳴る。
同級生のろうにんぎょう達に、
「ちょっと午後は、勝負に行ってくるわ!」
と、言い放ち、予備校を飛び出す。
麻雀を打つために、麻雀荘に向かう自分が、なんだか、とても誇らしかった。
Sのうしろを、馬鹿面を並べて、3人でついて行く。
Sが、「は、」と思い出したように振り返り訊ねる。
「おまえら、銭はいくら持っとるんや?」
ほぼ見た目ヤンキーのSがこういうセリフを
口にすると、ほぼタカリである。
「1000円くらい。たぶんみんな同じくらい。」
そう、すなおに答える私に、Sは、
「そうか、じゃあ、全自動は厳しいのう。
金は、俺が出してもいいけど、博打は自分の金で打たな意味がないけのう・・・。
一時間300円かかるけなあ。
おまえらのその手持ちじゃあ、それじゃあ、三時間しか打てんのう。
よし、わかった、ついてこい。」
そういって、Sは銀天街のすみっこにある、怪しい喫茶店へむかった。
博打という言葉に胸がどきどきする。
ちなみに、おそらくS以外は、4人で打つ麻雀を知らない。
けれど、一ミリも不安を感じないまま、アホ面を下げてSの後ろをついてゆく。
つかさ会は、今週は土曜日開催。
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はじまりの物語 [麻雀回顧録]
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ゲームセンターで、麻雀ゲームをしていた。
予備校生の分際で不謹慎だ、と思いながらも、麻雀がおもしろくて仕方なかった。
当時の麻雀のゲームは、1プレイ100円。
麻雀は、大人のゲームだから、その料金設定だったのだろう。
私のその当時のお小遣いは1日500円。
お昼を肉屋のコロッケで済ませたりして、そのゲーセン代を浮かせていた。
大切な時間。
予備校の休み時間の真剣勝負。
1打1打を真剣に悩みながら遊んでいた。
「おう、なんしよるんか?」
背後から声がする。
「なんか、おまえ、麻雀できるんか?」
Sが、ニヤニヤしながら、話しかけてきた。
リーゼントが似合う色白の美男子S。
まあ、現在でいうところのイケメンというやつだ。
Sは、パチスロが日課だった。
「アニマル」という台のモーニングサービスを取るという日課。
モーニングサービス、というのは、パーラーがあらかじめボーナスを仕込んでおくこと。
1000円、というか、ひとまわしで、ボーナスが揃う。
しかも、この「アニマル」という台はキョーレツな連チャン力を持つチート台。
Sのサイフには、いつも30万くらいのズクが入っていた。
7枚交換が主流だった24年前にも関わらずだ。
「よし、今度、麻雀やるか?」
そうニヤニヤしながら、口にするSに私は答える。
「いますぐやりたい!」
麻雀について教えて欲しいことがたくさんあった。
イーシャンテンって何?
跳び満って何?
おおはしきょせんって麻雀強いの?
ネットなどない時代。
しかもカーストは「予備校生」
「麻雀」なる未知なるモノに私はもう夢中だったのだ。
「他にも、麻雀したっちいいよるヤツおるけ、麻雀しよう!」
Sに詰め寄る。
サイフには1400円くらいある。
多分、お金は心配ない。
この日の夕方は、古本屋に麻雀の本を買いにゆくつもりだった。
もう、午後の予備校の講義のことなんか、忘れていた。
「いいけどよ。麻雀打つっち言っても、どこで打つんか?」
「・・・・・・・・・・・・・」
押し黙る私。
「Sんちは?」
「バカ言え、無理やわい。」
残念そうにする私を気の毒に思ったのか、Sはしょーがねえな、という感じで口にする。
「雀荘、行くか?」
雀荘、?
その響きにドキドキした。
「行く!行く!連れてって!」
これから牌に触れることができるなんて夢のようだ。
嬉しい、嬉しい、嬉しい。
私は、ぐずらな友人を二人無理やり付き合わせ、Sについて雀荘へ向かった。
大学受験まで、あと11ヶ月。
受験戦争に突入する前に、完全に道を踏み外したその瞬間だった。、
つづく
つかさ会は土曜日。
クローバー↓金曜日
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