トイレ代走 [麻雀小説サークル]



少し秋めいてきた季節。


市内で、唯一の低レートの麻雀。


エレベーターのない建物の3階。


点0・3 の300円600円


ゲーム代金 250円


大きいお札で、一晩遊べる。


学生だった私は、帰省時はそこに入り浸っていた。


朝10時にパチンコ屋に並んで


パチスロのモーニングサービスをとり


(昔パチスロには、モーニングサービスというものがあり


朝一、1ゲームでビックボーナスをそろえることができる台


そんな夢のようなサービスを店側が、用意してくれていた。


7枚交換なので、5000円くらいの勝ちにしかならないが)


5000円をもって、その低いレートの雀荘へ。


夕刻6時になると、階段を駆け上がる音が遠くに聞こえて


元気よくその店のドアが開く。


「おつかれさまっす!」


学生カバンをさげて


制服のまま、その青年が入ってくる。


青年は、お店の売りである100円の棒ラーメンを


注文して、カウンターのわきに陣取る。


それから、3時間は、観戦している。


理由は簡単。


お金がないのだ。


高校生だから。


市で一番の進学校に通う青年。


青年が麻雀を打つことができるのは、


気心の知れた常連の「トイレ代走」のみ。


「おう、トイレや。代走してや!」


その言葉を待ちわびて、


トイレの間、その1局を打つ。


麻雀が好きで好きで仕方のない様子が


もう全身から溢れ出ている。


青年は、毎日、放課後現れる。


必ず、現れる。


階段を駆け上がってくる音が今日も聞こえる。


目をキラキラさせて、常連の麻雀をみつめている。


人当たりの良い素直な性格で、


皆から愛されていた。



と、ある日。


私は、その店にしては高レート?な


1000点50円の麻雀で遊んでいた。


そして本当に調子がよかった。


3回くらい続けてトップを取っていて


4回目の半荘。


東3局で、8000点を振込み


流れがなくなったな、と感じたところに


注文していた「カッツ丼」が来た。


カッツ丼は、麻雀打ちのための食べ物。


名前も、片手で持てるその仕様もサイコーだ。


だから、食べながら打っても構わなかったのだけれど、


私は、どうせこの半荘は、「捨て」だと思い


若者にいい恰好をしたい、そんな下卑た気持ちも手伝って


青年にどや声で代走を頼んだ。


「めし、食うわ!代走してや!」


飛んでくる青年。


私は、青年によたりながら


「どうせ、ツキがなくなってきとうけ、


この半荘は、あと好きに打っていいばい。


もし、トップ取れたら、その浮きは


小遣いにしていいけな。」


と、小物感全開で、大物ぶる偉ぶる。


青年は


「本当ですか!」


と満面の笑み。


その局で18000を打ち込んで、とんだ。


「すいません。」


しょんぼりする青年。


わたしは、まだ、カッツ丼を食べ終わってなかったので


「悔しいやろう?もう一局、打っていいばい。」


と、よい先輩ぶる。


「あ、ありがとうございます!がんばります!」


次の半荘の東場で、彼の点棒はゼロになった。


手牌が育つことが嬉しくて嬉しくて


オリルなんてこと、夢にも考えていない。


常連の麻雀を観戦するにしても


きっと、手牌が育つ様子を楽しんで観戦しているのだろう、と思った。


「すいませんでした。


ありがとうございます!楽しかったです!」


青年は、そうわたしに告げると


優しい笑顔を向けた。


それから、受験まで、青年は毎日その店に現れた。


そして、現役で国立大学に合格をした。



青年は無事大学生になり、


私がその地方の大学に遊びにいった際には


新しい麻雀仲間とともに、迎えてくれた。


点30円、手積み、朝までコース。


麻雀が好きでしかないオーラは変わらずだったけれど


あまり、強くはなかった。


というか、この青年が強くなる、とは


正直思えなかった。


それから、8年。


新しく足を運んだ雀荘で、ふたたび青年と


ばったり遭遇することになる。












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