1000円しかない。 [麻雀小説]

麻雀が、打てる。

心臓が、早鐘のように鳴る。

同級生のろうにんぎょう達に、

「ちょっと午後は、勝負に行ってくるわ!」

と、言い放ち、予備校を飛び出す。

麻雀を打つために、麻雀荘に向かう自分が、なんだか、とても誇らしかった。

Sのうしろを、馬鹿面を並べて、3人でついて行く。

Sが、「は、」と思い出したように振り返り訊ねる。

「おまえら、銭はいくら持っとるんや?」

ほぼ見た目ヤンキーのSがこういうセリフを、口にすると、ほぼタカリである。

「1000円くらい。たぶんみんな同じくらい。」

当たり前だ。ろうにんぎょうは、ないマネーなのだ。

そう、すなおに答える私に、Sは、

「そうか、じゃあ、全自動は厳しいのう。

金は、俺が出してもいいけど、博打は自分の金で打たな意味がないけのう・・・。

一時間300円かかるけなあ。

おまえらのその手持ちじゃあ、それじゃあ、三時間しか打てんのう。

よし、わかった、ついてこい。」

全自動って何?洗濯機か何か?

手積みで打つものだろうと、信じて疑わなかった私は、

「そうか、入場料がかかるのか・・・

1時間とか、30分でもいいからうちたいなあ。1000円だったらどれくらい打てるのだろう・・」

そんな風にちょっと元気がなくなっている私を尻目に。 

Sは、華やかなアーケード街のすみっこにある、怪しい喫茶店へむかった。

博打という言葉に胸がどきどきする。

ちなみに、おそらくSと私以外の2人は、4人で打つ麻雀を知らない。

ゲームセンターの、あの「2人打ちの麻雀」しか知らない。 

けれど、一ミリも不安を感じないまま、アホ面を下げてSの後ろをついてゆく。


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