らくえん


らくえん。


客層の職種はさておき、上品な兄弟が経営していることもあり、


常連はみな、感じがよかった。


平素は粗暴であっても、この店での対局においては、みな紳士でいる。


上品に振舞おうと意識している。


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白い「いかついグロリア」は、毎晩22時頃に現れる。


ダブルのスーツを着た、見るからに、のフォルム。


スキンヘッドのおにいさんは、その風貌にあわず


驚くくらいに、とにかく腰が低い。いつもにこにこ。


麻雀を覚えたばかりらしく、他の客の麻雀談義にも、興味深そうに頷いている。


誰かが、役満をあがれば、「すごですねえ」と目をキラキラさせている。


と、ある、そのおにいさんとの対局中。


おにいさんのケータイが振動する。


その画面をみて、いぶかしがりながら、


「すいません。代走お願いできますか?」


と、おにいさんは、卓を離れて、店の外へ。


おにいさんの怒号が、店内まで聞こえてくる。


「おう!こら!なめとるんか?


今から、いくど。覚悟しちょけや!」


おにいさんは、ひとしきり怒鳴ると店内に戻り、


いつものにこやかな表情で


「すいません。急用ができてしまって。


このあとの対局、お願いできますか?」


と、きれいな1万円札を長財布から出して、丁寧にサイドテーブルに置き


代走をお願いした店員さんに、丁寧に頭を下げて、店から出て行った。


「おにいさんが、この場所と麻雀を大切にしている」という気持ちがこぼれている。


それでも、そのおにいさんから、小銭を巻き上げようと思っている自分が、みじめだった。


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店の店員である兄弟二人と、私。そして大男。


私は大男の正面に座る。


その大男は、卓に着くと、なんの違和感もなく


「よろしくお願いします。」と丁寧に頭をさげた。


卓の中央、液晶表示のサイコロがまわる。


東1局 南家である私に、役牌の南が組まれる。


開局刹那、高打点も見える13枚をもらったけれど、ここは足を使う。


全ての局を和了しきって、相手を完全封殺したい。


仕掛けてホンイツイッツー役牌のルートを見切り


初牌の南を叩いてすばやく、南ドラ1、2000点を和了する。 


(フリー麻雀のコツは、安手だろうとなんだろうと、とにかく手麻雀であがり続けること。

自分の手が安いということは、他家の手は高い。

自分が安手でもあがれば、他家のチャンス手をつぶすことができる。

まずは、他家の形を払うこと。 そう、その頃の私は信じていた。)


いつもどおりの軽いあがり。いい感じだ。


そう思い、点棒を受け取る私の手牌に、強い視線を感じた。


大男の視線だ。


遠くをみつめるような、慈しむような、なんとも表現できない表情。


私の捨て牌と、倒された手牌を見つめていた。


私ではない、麻雀牌を見つめていた。


「なんだ、この男は?なにか文句があるのか?」


私は、その大男になんともいえぬ不思議な感覚を覚えた。


いままで、こんな風に自分のあがり、自分の麻雀を強く見つめられたことなどない。


不気味であることはもちろんなのだけれど、


なんだか自分の南ドラ1の和了が、 とんでもなくいけないことだったような、


そんな気持ちまで、沸いてきた。


「嫌な感じだ。」  頭を振り、そんな雑念を振り払う。


「いままでも、こうやって打ってきた。 結果は出ている。


これからも、同じ様に打つだけだ。俺は間違ってなどいない」


次局は、私の親番だ。


自分のアガリでひっぱってきた親番。 展開は良好だ。


私は、卓上に漂う違和感に気づかないふりをしながら、


自分のこれまでの銭ゲバ麻雀を信じて、次局に向かってサイコロを振った。


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どいん

不思議で険しくて、朗らかで、壮大で。
この大男、ほんとに得体の知れん人やったなぁ。
by どいん (2022-11-22 19:42) 

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