どこにも届かないオーラスから [TSUKASA会]

 

ユージ オダに似たイケメン。


Iちゃんとは、フリー雀荘で出会った。


ここ一番での勝負強さもあり、


その打ち方に見惚れる若者もいたほどだ。


麻雀道場あがりの彼の


全く逡巡のない打牌は、王道を感じさせる。


30年前のお話だ。


いつもわれわれが常駐しているその店「さーくる」では


Iちゃんは間違いなくエースだった。


曲げてツモってツモってツモり殺すタイプ。


リーチと赤裏の麻雀だ。


(昔話でサーセン)


・・・


22時から、セット。


「いつもと違う店で打ちたいね。」だれが言ったのか


200円だか、100円だかの


いつもの店「さーくる」とは違う、フリー雀荘で待ち合わせ。


私が店に入ったなら、Iちゃんが


フリー東風に卓入りしていた。



「時間つぶしよ。」


振り返り にやりと渋む北家


Iちゃんの点棒は9000点


積み棒なし。


どうやらオーラスのようだ。


この店のルールは、積み棒は場に1500点。


赤チップは500円


白ドラはオールマイティで、リーチ後にツモれば祝儀。


Iちゃんの麻雀を後ろ見していると、


これからセットで打つ予定の「さーくる」の仲間(後輩)が


入店してきた。


「ん!Iちゃん、フリーで打ちよるとですか?」


自分たちのハウスでエースであるIちゃんの麻雀に


後輩たちも興味深々だ。



二三四②③④⑤(赤)3999発発


8000点をどこそこにぶち当たるか、


もしくは、ハネマンシュウをツモるか


どちらかじゃないと、ラスのまんま。


ここに⑥を引く。


二三四②③④⑤⑥(赤)3999発発


ん、ツモ切りかなあ?


三色か、せめて発?


後ろ見をしながら、リーチはないな。


観戦していた他の後輩の2人もそう思っていたはずだ。


エースで強いIちゃん。


ここからでも、トップを取るんじゃないか?と...


Iちゃんは、音速ノータイムで


3ソウをぶん曲げる。


二三四②③④⑤⑥(赤)999発発


リーチ赤


2600点




ラスの確定するリーチ。


「どこにも届かないリーチ」


なんで?


2巡後、①をツモって


1000.2000.4の1枚。


1発ツモもなく、白ドラツモもなく


着順も変わらない。


「なんや、にいちゃん、やすい麻雀やな。!」


同卓者の誹りに、少し笑って


Iちゃんは席を立ち


「さあ、打つばい。」


とイケメンな笑顔をブツケてきた。


私は気になって、Iちゃんに


「何なん?あのリーチ。


ださくない?どこにも届かんリーチやん!」


と、つめよる。


Iちゃんは、厳しい顔で、


「あれは、あれでいい。あれでいいんよ。


麻雀は、あれ1局じゃないんやけ」


とつぶやくように言い放った。


私が、私たちが後ろで見ている。


Iちゃんに憧れている後輩が見ている。


でも、いいところを見せようとせず


うまぶらず、欲張らず和了に向かう。


ああ、Iちゃんの強さは、こういうところなのかな、と思った。


30年経った現在でも、この和了を思い出す。


これがノーレートなら、どうだろうか?


大会の目無しの状態なら、どうだろうか?


精一杯ならよいのだろうか?


高い手ならよいのだろうか?


誰に許されたいのか?


何に認めて欲しいのか?


①をツモッた後の朝までのセット麻雀で


Iちゃんはひたすらツモり続けた。


私が捌いても捌いても、ツモり続ける。


まるで、麻雀の神様に寵愛されているかのよう。


フリーでのオーラスのどこにも届かない和了。


あの和了と、そのあとの和了は


独立した事象で、科学的にも何の因果関係は証明できない。


けれど、Iちゃんの麻雀のスタイル、という意味では


ちゃんと繋がっている。


曲げてツモる、彼の麻雀。


⑥を引いて横に伸びた手牌を


自分の銭勘定を理由に蹂躙せず、


驕らず、ウマぶらず、真摯に自分の麻雀を打つ。


強い心。


強い心と強い麻雀との繋がり。


それを重ねることではじめて、


その人だけの麻雀が生まれるのかもしれない。


目無しの時にこそ、自分と麻雀のホントウが見える。


尊敬されたいのか、うまぶりたいのか、


言い訳をしたいのか、麻雀は道具なのか、


麻雀を愛しているのか?


自分の我欲で牌にひどいことをしてはいけない。


できることであれば、


私はオーラスの目無しのときには、


その半荘を振り返る。その気持ちが欲しい。


自分の過去の麻雀を振り返る。その気持ちが欲しい。


そうして、現在の状況を受け止め


何をするべきかを静かに問う。


とても困難。困難だけれど。


そこに点棒よりも大事なものが見えたならば


それに殉じたい、と思うのだ。


満貫条件。


5200でOK.など


目的があれば、人は強く迷わず 前に進むことができる。


けれど、目無しだとそうはいかない。


でも、そういう絶望のなかから、みえる未来には


きっときっと本当がある。


自分のマージャンとともに積み重ねてきた


時間と思いが、希望を連れてくる。


次の半荘へ繋がってゆく。


;;;;;;;;;;;


人生においても、


迷い道を見失い、全てを呪い、きっとどこにも届かない


もう歩けないと思う、そういう日もあるかも知れない。


けれど、そういう時こそ、


自分を大切に見つめなおしてほしい。


今は見失っている道が、きっと見えてくる。


それは、あなたが、これまで歩いてきた道。


そして、これから歩いてゆく道。


裏切られることなどあろうはずもない


人が生きているという、生きてきたという証。







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