てんぷら定食を食べながら [麻雀回顧録]

おっさんは、薄汚れたジャケットのポケットに手を突っ込み

よたよたと歓楽街を歩く。

風にたなびくその生地の様子から、麻のジャケットだとわかる。

「確かに、本当はお金持ちなのかな?」

ふとそう思ってしまった。

歓楽街のアーケードのなかに、「てんぷら」の旗が立っている。

その旗のふもとから、地下へ続く階段が見える。

「ここのてんぷら、うめえぞ?食ったことあるか?」

おっさんは、そう嬉しそうに話しながら、

代金先払いな様子のその店のカウンターで

「てんぷら定食を2つ!」

と、注文して、さらに満面の笑顔で、

「いいから、いいから!」

と、私の分のてんぷら定食の代金も払う。

ポケットから、小銭をかき出し

手のひらのうえで、「ひい、ふう、みい」とやってる。

なんだか、微笑ましくて

私はもう、このおっさんのことが大好きになっていた。

てんぷら定食をかきこみながら、

おっさんが、いきなり麻雀のハナシをはじめた。

「ほら、あの、テンパイ。

マンズとソーズで、ソーズを和了し損なったやつ?

あれ、なんで、ソーズ待ちにしたら和了しやすい、っち思うんや?」

私が、三三四五六七八①①①7778

七ワンを引いてこのテンパイ。

ドラのない3面待ちの択一選択。

このドラの絡まないテンパイから、三を切ってリーチを打つ。

7ソウのアンコウで8ソウ9ソウが取りやすいと判断したからだ。

この打牌のことのようだ。

「だから、7ソウアンコウで、8ソウ9ソウがロンできるかな?」

と思ったからですよ。

私が、誇らしげに答えるとおっさんは、

「そうか、そう言いよったなあ・・・

そうか・・・まだまだ、青いなあ」

と、チョー上から目線で、わざとらしいため息交じりに続けた。

「いいか、ようききない。

ソーズの7ソウが4枚あるっちゅうのは、

あんたしか、知らん情報じゃ。な?

逆の立場で考えてみりゃええ。

あんたが、あんた以外の他家の立場になってみい。

全部の捨て牌に、ソーズの7が出とらんちゅうことは、

誰かが使っちょるっちゅーことや。

そのそばを、わざわざ切るかね?

あんたは、自分のことしか、見えちょらん。

まあ、それが若いっちゅーことなんやろうけれど。」

そう言い、めっさ男前な表情で、

「わしなら、マンズで待つ。

最後に七ワンを引いてテンパイっちゅーのも洒落とる。

それに、多面待ちは、横に広くが基本じゃ。」

そう捲くし立てた。

「まあ、なんでもいいんじゃけどな。

麻雀は、相手がおるっちゅーことや。」

そういって、また、にっこり笑った。

てんぷらを食い終わり、店を出ると、

悪いな、と手を上げ、おっさんは、セブンスターをふかし

「いやあ、メシのあとの一服と、テンパイのときの一服は最高じゃ」

と、私にタバコを勧める。

タバコは、吸えない自分だったけれど、

なんとなく、同じ空気を味わいたくて、そのセブンスターをくわえる。

その匂いにむせる私に

「そっか、たばこはダメか?

かわいそうにのう。テンパイタバコを味わえんのじゃなあ。」

と、また、イタズラっぽく笑った。

どうみても、おっさんは、金持ちなんかではない。

そんなの一目瞭然だ。

車もちょろQぐらいなら持っているかもしれないが、

ぱっと見、本人の「ねぐら」すら、怪しい感じだ。

けれど、麻雀が好きなのだろうな、ということは、

痛いくらい伝わってくる。

麻雀が好きな人間に悪いやつは、いないはずなんだ。

そう思っていた平成のはじまりの時代のこと。

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本編とは、まったく関係ありません。

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