金曜日だから、いっちょまえに上品なカフィで食事を終えて、20時30分。


青信号に歓迎されながら、2速全開で、道場へ向かう。


師匠と打てるかな?


今日は、だれがいるのかな?


今日は、何を学べるのかな?


わくわくが加速する。


道場の前に、クルマを番長停めをして、


110円で缶コーヒーを買い、ドアを開ける。


師匠は、すでに卓入りしていて、待ち人がひとり、


手役の説明を受けている様子、ピンフの説明を受けている。


どう見ても、初心者のようだ。


「あなた、この方と同卓してもらえんじゃろうか?」


師匠がわたしにいう。


背後で、ご近所迷惑なターボータイマーが切れる音がする。


レベルの高い麻雀が打てると思って、全力で駆け付けた。


なのに、なぜ、手役すら自分で覚えてこない人間と同卓しなければならない?


冗談ではない。


師匠ととなりの卓で、ふてくされながら、師匠の卓を見つめるわたし。


わたしの対面ではモタモタと、初心者が牌と格闘している。


イライラがつもる。


どんな牌だって飛び出してくる。


こんなの麻雀じゃない。


こんな麻雀を打ちたくて、ここにいる訳じゃない。


イライラが募って、爆発しそうだ。


こころあらず、強打となった私の打牌音が道場内に響く。


なんで、ノーレートでこんなつまんない麻雀打たなきゃならんのよ。


「ちょっと、きなさい。」


師匠の卓が割れた後、背後から怒気のこもった声がする。


「今日は、もう帰りなさい。


あなたに、麻雀を打つ資格はない。」


師匠は、わたしの代わりに卓入りをして


わたしの非礼を初心者に詫びている。


なんともやりきれない気持ちでいる私は、帰宅命令を無視して


道場の隅で、師匠がはいっている初心者卓の様子を見ていた。


真剣な表情の初心者。


重なる師匠の笑顔。


場の空気が穏やかになってゆく。


道場全体で、麻雀を楽しんでいる。



23時。


師匠が、私に優しく告げる。


「あなたは、あなたの好きな麻雀しか、大事にしない。


 それでは、ダメじゃ。もったいない。


 あの初心者のひとが、どういう気持ちでいるか、考えなさい。


 いつも、いつも、相手の気持ちを考えなさい。


 麻雀は4人で打っている。」

 

 麻雀は、ひとと打ってこその麻雀だ。


 麻雀は「ひと」なのだ。


その初心者のひとが、麻雀に心酔してゆく場面に、居合わせることができたなら、


そこには、そのめぐりあわせには、きっと果てしなく大きな意味がある。


思い返してみるとわかる。


自分がどうだったか。


麻雀を打ってもらえることが、嬉しくて仕方なかったじゃないか?


同卓を拒否されないだけで、御の字じゃないか?


自分は、その日、麻雀について、何よりも大切なものを学んだ。


一期一会。


牌と人とのめぐりあわせの不思議に、今日もこころを奪われる。