当時の記事を、探したけれど見つからなかった。
記憶も蒙昧で、カンチャンを一点で読まれていたこと、と
異様な威圧感は、峻烈に記憶に焼き付いている。
全て、書きなおしになり、なおかつ過去記事との齟齬があることを、
申訳なく思いながら自分が麻雀に傾倒していくきっかけを、掲載してゆきたい。
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自分の麻雀の力でも「勝てる店」を選定していた。
麻雀で勝つために、一番大切なことは、「自分より拙い相手と打つこと」だ。
そして、同卓拒否をされないこと。
その為には、この人は、強いと思われては損だ。
店のメンバーあたりから、辛く打たれてしまう。
勝てばよい。勝つことだけを目的として他人の嫌がることを最優先する。
自分のいらない牌は切りまくるけれど、絶対にふりこまない。
捌いて、捌いて、捌きまくる。
ラスを引くくらいなら、2着でよい。
三色?イッツー?手役への憧れはいらない。手役は、もはや、都市伝説だ。
タンヤオと役牌で全ての局に参加する。
麻雀は自分が和了できれば、失点はない。
また、私の鬱陶しい打牌で、他家が手順を誤るのであれば、それはとても効果のあること。
そう割りきったあとの私の成績は、良好だった。
不ツキのアヤを感じれば、もうその日は店じまい。
ツイているときは、とことん攻める。
最初の半荘で、ラスを引いたなら、そこで一度卓を洗う。
トップを取ったなら、連帯を意識して打ち続けて、3着を引いたなら、ラス半コール。
「身勝手な振る舞い」でも、ルールに違反はしていない。
とにかく、お金が目的だった。
勝つこと。勝つ為には負けないこと。
麻雀での副収入がなければ、明日もない。
月トータルで、7万円は、必要だ。
たくさんいる常連客。みな楽しそうに打っている。
みな、その日やらなければならないことをこなして「麻雀」を楽しんでいる。
けれど自分はそうではない。
「麻雀を打つこと」の楽しさなど、とうに忘れ去り、「お金」だけをを目的にしていた。
そのうえ、お金が目的と悟られぬよう、目立つ振る舞いは控えていた。
とにかく、ラスだけは引かないこと。ゲーム代と、ヒラがある。
一回のトップをラスでは返せない。
南2局からの、2着狙いなんて、常套手段だ。
2着にぶらさがることは、ある意味トップをとることよりも大切だった。
2着3回、トップ1回は、トップ3回、ラス1回より価値があった。
たくさんの麻雀荘を放浪して、一番心地の良い雀荘へ。
「らくえん」と呼ばれる雀荘。
清潔で、雰囲気の良いその店で、ジグマスタイルを取っていた。
一番負けにくい雀荘。
自分が負けにくく、勝ちやすい雀荘。
若い兄弟が、経営している雀荘で、客層も若い。
卓も新しく、卓の中央では、液晶表示のサイコロが躍る。
ゲーム代もリーズナブルで、客層も初心者が多かった。
テンパイやノーテンは所作でわかるし、
打点がみえているときには、振り込んだり、和了してもらったり、
全てを利用していた。はっきりいって、やりたい放題だった。
毎日午後19時に、入店。悪ければ半荘1回。
良ければ、朝まで。
サラ金の取り立て屋。パチプロ。
700円の弁当を頼んで、1,000円札を渡して「釣りはいらない」なんていうくらいの連中。
小銭は蔑ろにされているそのくらいの感覚。
職業や金銭感覚は別にして、皆マナーはがよかった。
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雨が降る。
金がなかった。
とにかく、金がなかったんだ。
自分が手っ取り早く、「小銭を掴む手段を考えた時」に、選択肢はなかった。
「フリー麻雀。」
大好きだった「麻雀」を、生活の手段に変えざるを得なかった、あの頃。
誰かの涙のように、雨が降りしきる。
店内まで響く雨音が、不思議と気持ちを落ち着かせてくれる。
こんな夜には、何かが起きそうだ。
その日も、卑しくも日当分を稼ぎ、時計を見やると、午前1時。
雨足の強い帰路を気にしながらも、私はラス半コールを入れた。
こんな時間、こんな天気の時に、新しく来る人間もいないだろう。
店員2人入りでの、その日最後の対局。
ゲーム代を先払いしようとした刹那、店のドアが開いた。
雨音を背中に背負い、重い声が響く。
「打てるじゃろうか?」
声の主は、山のような大きな体をしていた。
人の良さそうな顔つきだが、目だけが妙にギラギラとしている。
「もし、邪魔でなければ、1.2回遊ばせてもらえんじゃろか?」
そう続けるその男に、店員は「どうぞ」と席を譲りルール説明を始めた。
「レートは・・・」そう口にする店員をその男は遮る。
「説明はええ。また、わからんことがあったら、教えてつかあせ」
謙虚なのだかなんだか、得体が知れない。
とにかく、私は、その男のことが気にいらなかった。
「レートもルール説明も無用とは、何様だ。偉そうな様子。気に入らない!」
自分のナワバリを荒らされたくない気持ちが、こみ上げてくる。
狭いイケスの中の安いプライド。
今日の私は、思いのほか、状態がよい。ツモリ続けてやる!
雨は降り続けている。雨音が遠く聞こえる奇妙な静寂の中、対局が始まった。